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【雑記】”All Things Must Pass” – 音楽産業の栄枯盛衰

やっぱり1970~80年代の音楽が、聴いてていちばん心地いいかもしれないなあ。
とにもかくにも「メロディ」が大切にされてた時代なんですよね、どのカテゴリーの音楽を聴いてもそんな印象があります。

 

「タワーレコード」の栄枯盛衰の歴史を綴ったドキュメンタリー映画

 

国内では90年代初頭にバブルが崩壊し、国際社会に目を向ければその後の「リーマン・ショック」や「テロ」などによって国際的な秩序の崩壊や経済的不況がはびこり、時代が混迷を極めたここ20年ほどで、趣味や娯楽である「音楽」の世界も良くも悪くも大きな変貌を遂げました。それは音楽を発信・供給をするサプライヤー側も、受容する側のリスナーを取り巻く「視聴する環境」の劇的な変化、つまりは「iPod」の登場による従来の「再生機器」とCDを主とする「メディア」の均衡の崩壊が始まり、音楽という産業全体の構造がすっかり変わってしまった「過渡期」が、特にこの10~15年くらいの間で発生していたんじゃないでしょうか。

これまで「現物」として存在していたソフトであるCDなりアナログ・レコードを「所有」することから、「Apple」「Spotify」に代表されるような、「配信」という姿カタチのないお化けのような「音楽ファイル」つまりは「データ」を個人で蓄積していくようになり、挙句の果てには「クラウド」的な「サブスクリプション」という発想のシステムに変わりつつある状況が、もう僕らの身の回りに普通に存在しています。
このとてつもなく大きな変化を「進化」と捉えるべきなんでしょうが、ことハードの面では便利になったとはいえ、個人的にはあまり好ましい進化ではなかったかもしれません。発信されてくるソフトである音楽の「質=Quality」に関しては、録音やRe-Mixといった技術的側面から言えば当然向上してはいるものの、「楽曲」そのものがどこか画一化していて、従来からあったはずの美しい「メロディ」をどこかに忘れてきてしまったような、なんだか後ろ髪を引かれるような、そんな「物足りない感覚」がいつもずっと自分の中にくすぶっていたというのが、自分の本音と言えましょう。昨今の、80年代音楽のリバイバルと共にLP(アナログ盤)やカセット・テープなどが見直されてきているような事象も、そんな高度にデジタル化してしまった我々を取り巻く、なんだかゴツゴツした窮屈な環境に対するアンチテーゼなのかもしれません。結局は、音楽を聴くのは「生身の人間」であることは永遠に変わらない事実なのですから。

 

 

かつては、世界5大陸30カ国に200店舗を有する大手レコード店チェーンに肥大化したTOWER RECORDSも、時代の流れに翻弄され、現在では日本を除く世界中から実店舗が消滅してしまったのを、皆さんご存知でしょうか?「タワー・レコード」という巨大レコードショップの誕生から消滅までを描いた、名優「トム・ハンクス」の息子で自身もハリウッド俳優として活躍する「コリン・ハンクス」が監督を務めた映画「オール・シングス・マスト・パス」は、そんな激動の時代を描いたドキュメンタリーです。鑑賞後の感想ですが、世界中のすべての音楽好きな人々にとって、この映画が多くの問題を提起をしているのを、賢明な方であれば容易に理解できるはずです。
映画のタイトル “All Things Must Pass”    とは、すでに故人の George Harrison (ジョージ・ハリソン)が THE BEATLES の解散直後の1970年に発表したソロ・アルバム・タイトルで、時の移ろいと共に「すべては過去のものになっていく」といった意味で、いかにもタワーらしい潔いくらいのタイトル・ネーミングだなあと、なんだかすごく共鳴してしまいました。

過去に一度だけ、米国の旗艦店舗でタワーのシンボル扱いだった、ウェスト・ハリウッドのサンセット大通店をレンタカーを駆って訪れたことがありますが、当時は「マイケル・ジャクソン」の勢いがピークだった1980年代後半で、わくわくしながら店内に3-4時間位は滞在した記憶があります。もちろん、それ以外の全米主要都市の店舗にも、足を運んだことがありました。日本国内でも同様でしたが、「どこかの街に着いたら、まずはタワーへ」といった感じのレコード好きの日常的な日々を、若い頃は過ごしたものでした。そういう意味では、今以上に世界中で「音楽」がそういう「熱」を持っていた、いい時代だったのかもしれません。

 

“All Things Must Pass: The Rise and Fall of Tower Records”
 

僕が経営していた実店舗の「Mellows」がなくなってからもこのサイト(ブログ)を続けてきたのも、そんな思いが強くて「いい時代にあった、いい音楽」を継承していくべきという視点から、こんなこと続けてる奴が世の中にいたっていいだろうという思いで、今日までマイ・ペースでやってきているのが実情なわけです。

ここのところよく文字にして表現してますが、若手の「ブルーノ・マーズ」の大活躍によって、よき時代の音楽のあるべき姿が戻ってきているような気がしてなりません。例えば彼の最新アルバム「24K MAGIC」を例に取ると、かつてのアナログ・レコードで考えたらベストな9曲程度の収録数とはいえど、POPSとして質の高い楽曲の数々は練りに練られたアレンジで構成され、素晴らしいプロデュースが成されているわけです。この「配信」がメインで「一曲ごと購入」の時代に、「アルバム」としての価値を再確認させるだけの内容の作品を世に出したことは、もう大変意義のあることですね。今は亡き「プリンス」が生前最後の昨年のグラミー授賞式のスピーチで、「みんなアルバムって覚えてるかい?」『Black Lives Matter』と同時に観衆に問い掛けたのは、そんな事態を危惧したゆえの発言だったと思うんですよね。アーティストとしては、「アルバム」として聴いて欲しいわけですから。

音楽産業の構造は大きく変化してしまったけれど、人々が音楽が好きで、それらが自分の人生の傍らにいつもあって、尚且つ心の支えになっているという不変の事実は、たとえ時代が移ろっても変わらないはずだから。