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Mellow Tunes ~ Vol.104 【Toots Thielemans】

梅雨入りのタイミングで更新をお休みしてから早いもので2ヶ月以上が経過し、いくつかの台風をやり過ごし、ようやくそろそろ秋への入り口に入る頃かと、例年の大嫌いな夏の暑さにも辟易していたところで、またも偉大なる一人のミュージシャンの訃報が届いてしまった。

Toots 01稀代の技巧派であるにも拘らず、『ハモニカおじさん』として世界中から愛されたあの Toots Thielemans (トゥーツ・シールマンス) が、二日前の8/22に生まれ故郷であるベルギーのブリュッセルに於いて94歳で天に召されたとのニュースが、あっという間に世界中を駆け巡った。
当ブログでもいくつかの記事で取り上げているくらい、大好きなハーモニカ奏者だった。本当に残念でならない。
元々はJAZZギタリストだったトゥーツは、後にハーモニカに転向し、JAZZの分野に留まることなくPOPSやFUSIONそしてR&Bなどの異分野のアーティストとの共演などでも、JAZZに限らず世界中の多くの音楽ファンを魅了し続けた。

僕が彼のハーモニカの音色と初めて出会ったのは、Quincy Jones (クインシー・ジョーンズ)が1981年に発表したあの有名な「愛のコリーダ」が収録された、世界中の多くの一流ミュージシャンを起用してトータル・プロデュースした名盤アルバム『THE DUDE』のラストかその一つ前に収録された『Velas』という、南米ブラジルの誇る音楽家 Ivan Lins (イヴァン・リンス) のカヴァー作品だった。

 


Quincy Jones & Toots Thielemans / “Velas” (album: THE DUDE – 1981)

 

クインシーとJohnny Mandel(ジョニー・マンデル)によるストリングス・アレンジが秀逸なのは言うに及ばず、トゥーツの軽やかな「口笛」のイントロから始まる美しいハーモニカの音色、そしてユニゾンする本人による控え目なギターのアンサンブルは、もはやこの世のものとは思えないほどの音楽まで昇華しており、たおやかで優しい印象を聴く者すべてに与え、彼と偉大なプロデューサーであるクインシーによって紡ぎ出される、唯一無二の美しい世界観を垣間見ることができるというものだ。本作品は、後年多くの若手アーティストたちによって、現代になってもサンプリングされているのは無理もないことだと思う。

 

それから2年後の1983年に発表された、離婚後ショウ・ビジネスの表舞台から少し遠ざかっていた Billy Joel  (ビリー・ジョエル) の復帰作として爆発的に売れたアルバム「An Innocent Man」に収録された『Leave A Tender Moment Alone』(邦題:夜空のモーメント)でのトゥーツの客演には、完全にノックアウトされてしまった。再婚したばかりのビリーが、まるで「10代のひと夏の恋」でも歌い上げるかのようなロマンティックな作品としてファンの間ではよく知られる楽曲だけど、イントロや間奏で演奏されるトゥーツのあまりにエモーショナルなハーモニカの音色とメロディに、「心のひだ」が揺れ動かなかった人はいなかったはずだ。

 


Billy Joel – Leave A Tender Moment Alone (Live Version)

ビリー本人が「my next record」と言っているのでおそらく「An Innocent Man」のアルバムリリース前に行われたこのライブで共演者であるトゥーツを紹介する際に、「He is the best harmonica player in the world !」と最大限のリスペクトを持ってオーディエンスに紹介していることからも、その存在感の大きさや熟練したプレイと同時に彼の持つ人柄の良さが十分に伝わってくる。曲の最後の二人のやり取りがなんとも微笑ましく、この度の訃報にビリーも相当に心を痛めていることだろう。

 


Billy Joel / “Leave a Tender Moment Alone” (album: An Innocent Man – 1984)

 

その後にJAZZに傾倒していった僕が出会ったのが、“cafe Mellows” を実現したいと思う原動力となったアルバム「Waltz for Debby」で知られたJAZZピアニスト Bill Evans(ビル・エヴァンス)とトゥーツが共作し、1978年に発表したアルバム『Affinity』だった。大好きな二人が共演しているからというだけでなく、お互いの未知の部分を引き出しあうようなインタープレイ(掛け合い)とケミストリーに、時代が変わっても聴く度に癒されそしてワクワクするような発見が今でもある。ただ残念なのは、二人共にもう夜空の星となってしまったこと。

 


Bill Evans & Toots Thielemans / “Jesus´ Last Ballad” (album: Affinity – 1978)

 

晩夏の季節に聴くトゥーツのハーモニカや口笛は、切ないほどに似合いすぎて怖いくらいだ。

R.I.P. Toots…   ハモニカおじさんは僕らの永遠のヒーローなんだ。

 

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