Coffee Break ~ Vol.23【風のゆくえと世界のカタチ~この夏の記憶から】

九月の風は、どこかためらいがちに吹いている。
過去に例のないほどの酷暑の名残を引きずりながら、街中の木々は少しずつ秋の気配をまとい始めた。残暑はあるものの、窓辺に差し込む光も、どこか柔らかくなったように感じる。

 

 

この夏、日本の政治は大きく揺れていた。
新興政党の躍進が際立った参院選の結果を受けて、与党内では総裁選の前倒しが囁かれ、「誰がこの国の舵を取るのか」という問いが、今現在の永田町の空気を重くしている。過程があっての結果なわけだから、これまでの30年という経過した月日でやってきたことを、政権与党内で検証する兆しさえ見えなてこない国民不在の政局に、深い憤りと諦めにも似たような感情が、胸の中で錯綜するのを強く感じている。
日々の暮らしの中で反芻されるその問いは、どこか遠く、そしていつものように曖昧なまま通り過ぎていく。

一方、世界の空は、より深い陰を落としていた。
ガザでは、停戦合意が破られ、再び空爆が始まった。子どもたちの泣き声が、瓦礫の隙間から聞こえてくるような報道に、胸が締めつけられる。
ウクライナでは、ロシアによる大規模な空爆が続き、キーウでは民間施設が標的となり、生まれて間もないような子どもを含む犠牲者が出たという。戦争は終わる気配を見せず、国際社会の声も、どこか空回りしているように映る。

 

そんな世界のざわめきの中で、僕はひとつの静かな別れを経験した。
7月半ばのある日の早朝に、今年で18歳になった愛犬の旅立ちを妻と共に見送った。
足腰が弱り始めたここ数年は、主に自宅のリビングで、家族で過ごす時間の中で彼は静かに寄り添っていた。朝の光の中で眠る姿、僕らの足元に寄り添う仕草、そして沈黙をそっと受け止めてくれる優しい眼差しは、18年前に初めて我が家に貰われてきた頃からずっと変わらなかった。


以来仕事から帰宅すると、彼がいなくなった部屋は物理的には変わらなくとも、やけに広く感じられ、そして静寂だけが漂う空間にになった。今尚深い「ペット・ロス」を痛感している。
けれども、その静けさの中に、彼の気配は確かに残っている。
あの柔らかな眼差しは、今も記憶のなかで、僕らに問いかけてくるようだ ー「おーい、今日も元気にしているかい」と。

 

 

 

世界がどれほど騒がしくても、今では Web でしか存在しないこの小さなカフェ空間だけは、いついかなる時も、誰かの心がほどける場所でありたいと願う。
「珈琲の香り」と「音楽の余韻」が、ほんの僅かであっても、誰かの「今日」いや「過去」も「未来」さえも、そっと支えてくれるように。

風に吹かれその音に耳を澄ませながら、僕は今日も、問い続けている。
「この世界に静けさを取り戻すには、今何が必要なのだろう」と。

 

 

Ledisi / Songs from “for Dinah” (Oct.2025)
Track-01: “This Bitter Earth”
Track-02: “What A Difference A Day Made”
Track-03: “What a Difference a Day Made” at Villages Studios in LA
( *These songs from ‘For Dinah’, Ledisi’s upcoming tribute to the great Dinah Washington.)

 

 

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