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Coffee Break ~ Vol.20【#雨降る惑星】

まだ六月に入ったばかりだというのに、すこし気の早い台風が北上中。列島の南半分の地域に「梅雨入り」をもたらした梅雨前線が刺激されて、大雨の地域が拡大している。全国に点在する多くのダムも、貯水量との兼ね合いから放水を開始しているようで、河川の氾濫が心配だ。これからが本格的な雨の季節。どうか、穏やかにやり過ごせますようにと願わずにはいられない。

 

 

まもなく本格的な「雨の季節」に入るのを肌で感じる今日この頃。
そんな雨の季節にこそ、読んでほしい小説がある。

いつも気ままにTweetしている音楽紹介がきっかけで相互フォローすることになった、米国・NY在住の小説家「森 遊」さん。今回紹介するのは、彼女の記念すべきデビュー作の#雨降る惑星だ。

 

 

映画も小説も、普段は歴史物を筆頭にドキュメンタリーやノンフィクションを好む自分だけど、配給元のAmazonでのレビューを読んで興味を持ち、数か月前に読了した。

二人の女子中学生と一人の男子中学生による「ひと夏の体験」が、著者独自の若々しい感性で美しく切り取られた、それは瑞々しい表現が言葉となり、文中のあちこちに散りばめられている。

軸になっているのは、主人公として魅力的に描かれる少女「ケイ」をめぐる同級生三人のひと夏の冒険であり稀有な体験とはいえ、よくよく考えると其々の家族ら周辺の人たちの人生も含めた群像劇でもある。故に、大人の読み手も飽きさせることがない。

読了後に著者と連絡を取り合う中で、書き手としては「読者が主人公のケイに恋をしたらこの上なく嬉しい」との言葉があったけれど、まるでこちらの心を見透かされたようで、年甲斐もなくまさしくそんな感情を持ったので、正直なところ驚きを隠せなかった。

想像を超えた終盤のドラマティックな展開に、興奮・怒り・同情・郷愁などがないまぜになった。
ティーン・エイジャーのひと夏の体験をフィルターとした、いまの日本国内に於いてもフォーカスされている、現代社会における「LGBTQ」「性加害」「小児性愛」等々の問題にも鋭い視点で切り込む「社会派小説」の側面も併せ持つ作品であり、著者のダイバーシティ感覚の鋭敏さに舌を巻く。
そしてファンタジーとしての魅力が何より鮮烈で、映像化を求めるファンの声が多いのがとてもよく理解できる。それがもし可能であれば、ぜひとも観てみたい。

最後に、小説のタイトルとの関係性に気付いたときが、本作品における読み手のクライマックスとなることだろう。

いよいよ本格的な「雨の季節」。珈琲とピアノ・ソロを準備して、この季節にもう一度読んでみたい。

 


Brad Mehldau – “Here, There And Everywhere”
(album: Your Mother Should Know: Brad Mehldau Plays The Beatles – 2023)
Piano: Brad Mehldau
Arranger: Brad Mehldau
[Written by: John Lennon / Paul McCartney]

 

 

__________ 追記 __________

読了された方ならば、The Beatles の名曲【And I Love Her】のタイトルや歌詞の意味・内容に、同調される方も少なくないかもしれません。登場人物だけでなく読者にとって「ケイ」が永遠の存在でありますように。

記事の公開後、著者の「森 遊」さんが「ブラッド・メルドー」氏の大ファンだと伺い、以下のプレイリストも追加しました。

 


“And I Love Her”
Track-1: Brad Mehldau Trio / from the album: Blues and Ballads – 2016
Track-2: Brad Mehldau / from the album: 10 Years Solo Live – 2015
Track-3: Brad Mehldau / from French comedy film “My Dog Stupid”  (Mon chien Stupide)- 2019
[Written by: John Lennon / Paul McCartney]

 

そして、「雨の季節」を想起させる素敵なジャケットの、パット・メセニーのアルバムからも【And I Love Her】のソロ・ギターの秀悦な Cover も加えておきます。

 


“And I Love Her” – Pat Metheny
(album: What’s It All About – 2011)
[Written by: John Lennon / Paul McCartney]