Mellow Tunes ~ Vol.14【Phyllis Hyman ~ in N.Y.編】

定休日での仕込が終わり、お店から自宅へ帰る途中、窓を開け夜風に吹かれながら車中で聴く、カーナビに繋いだ iPod から聞こえてきたのが、今では懐かしいこの一曲でした。

「What You Won’t Do for Love」は、オリジナルはAORの重鎮 「Bobby Caldwell」 (ボビー・コールドウェル) の1978年にリリースされた同タイトルのデビューアルバムに収録されており、もはやスタンダードと言って差し支えない名曲で、POPS・JAZZ・R&Bなどのカテゴリーを超越して、それはそれはこれまで多くのアーティストによってカヴァーされてきました。『Do For Love』と短縮されて呼ばれることも多い作品ですが、「この曲が好きではない」という人に、僕は今まで会った試しがありません。それくらいの、「ポピュラー音楽史上最高峰に位置する楽曲」と申し上げても、誰も否定することはないでしょう。

今回紹介する 『Phyllis Hyman』 (フィリス・ハイマン) はフィリー・ソウルで有名なフィラデルフィア出身の歌姫で、波はありましたが主に1980年代に活躍した女性です。見た目も麗しく、高身長でステージ映えするだけでなく、とても才能に恵まれた人で、ミュージカルに出演したり、多くのラブ・ソングをはじめ素晴らしい作品を残しています。

 

 

 

Phyllis Hyman / Living All Alone僕は、今から25年ほど前(1987年)になりますが、渡米滞在中の New York「Blue Note」 で、彼女のライブを見る機会に恵まれました。当時は携帯・スマホはもちろんインターネットさえも存在していない時代。街角のニュース・スタンドで買った、エンタメ情報誌の「Village Voice」紙を片手に携えて、ステージの始まる夜、マンハッタンから地下鉄に乗り、わくわくする思いで現地へ急いだ。
行かれた方はお分かりだと思いますが、NYのVillageにある本店はほんとに小さなお店で、どこに座ってもステージが目の前に感じられる距離でして、どこから現れるのだろうと、まだかまだかと彼女の登場を待っていました。すると、この曲のイントロが聞こえてきたけれど、彼女の姿は見えず。慌てる聴衆は皆辺りをキョロキョロと見回します。なんと、彼女はお客さんが入ってくるエントランス・ドアから、大柄な身体にシックなドレスを身にまとい颯爽と登場したのでした。それはそれは、なんともカッコよく、アメリカのエンタテイメントに関わるショー・ビジネスの世界の凄さというか素晴らしさを、ガツンと体験した素晴らしい Village での一夜となりました。その後フィリスの虜になるのに、ほとんど時間を要することはありませんでした。

 


Phyllis Hyman – What You Won’t Do for Love
(album: Living All Alone) 1986

 


Phyllis Hyman – What You Won’t Do for Love
(From TV Live Show)

 

そんな彼女も、浮き沈みの激しいショウ・ビズの世界に心身を蝕まれ、とても繊細だったと伝えられている彼女が、薬物により自ら命を絶ったというニュースが耳に飛び込んできたのが「1995年」だったはず。まだ記憶に新しい「Whitney Houston」(ホイットニー・ヒューストン)の死もそうですが、多くの偉大なアーティスト(特に黒人の)による薬物に起因する、若すぎる訃報は、もうこれ以上聞きたくないと、常々思っています。
それにしても、フィリス・ヴァージョンのこの曲のイントロが流れ出すと、あの日あの夜見たライブでの、彼女の円熟した歌声とステージを、まるで昨日のことのようにいつも思い出してしまうのです。

 

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Phyllis Hyman
“Living All Alone”    (1986)

 

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