Mellow Tunes ~ Vol.147【CHEMISTRY】

「少し早いかな」と例年感じる「暦」の上での『立冬』から、10日も過ぎる頃には、しっかりと晩秋から冬に変わってゆく「小さな足音」が、遠く彼方から「ひたひた」と近寄ってくるような印象が強くなってきます。そう、それは北の方角から吹き寄せてくる「風」であったり、落ち葉が路上で擦れ合い舞い上がる「カサカサッ」といった音であったり、この時期の季節の変わり目を象徴するような自然現象に、たびたび目や耳を奪われる機会が増えてくるものです。この国の美しい季節「秋」も、そろそろ見納めの時期でしょうか。

 

 

そんなあらゆる郷愁の想いにかられるこの Mellow な晩秋の季節に、あの「川畑・堂珍」コンビによる『CHEMISTRY』が、いよいよ表舞台に帰ってきました。CDが本日(11/15)発売となった、6年ぶりとなるユニット再始動シングル『Windy / ユメノツヅキ』は、昔のシングル・ドーナツ盤で言うところの「両A面」、つまりはダブルリード曲のシングルという具合。

このブログでは、川畑君が鈴木雅之氏とDuetした大人のバラッド作品『Half Moon feat.鈴木雅之』を一度取り上げただけで、「CHEMISTRY」としての作品を取り上げることはありませんでした。
その理由とは、1999年に民放TVのオーディション番組を発端とした彼らのデビュー以前から、一貫して総合プロデュースに携わった「松尾潔」氏が深く関わっていた頃から、その後の彼らの目指す方向性が期待と大きく変わってしまい、とても残念な思いを感じていたからでした。
国内邦楽のPOPS史上我らが大先輩にあたる「桑田圭祐」氏率いる SOUTHERN ALL STARS がかつて世に放った不朽のバラッド『いとしのエリー』と双璧を成すほどの、バラッドの名作『You Go Your Way』をはじめ、プロデュサーとして彼らにいちばん相応しい方向性を見出していたのは、誰あろう「CHEMISTRY」の生みの親である「松尾さん」だったのは、誰の目から見ても明らかでしたから。でもね、それでいいんですよ。誰だって、若い時期だからこそあれもこれもチャレンジしてみたいというのは、当然の成り行きであり「通過点」だったわけで、公私に渡り多くの経験をお互いに積んだ二人が、ようやくその「あるべき場所」というか「立位置」に帰ってくるのを、おそらく多くのファンはずっと耐えて耐えて待っていたような気がしてます。無論、僕もその内のひとりなのは言うまでもないのですが。

 


CHEMISTRY 再始動後初シングル『Windy』MV

 


CHEMISTRY 『ユメノツヅキ』Lyric Video

 

「ユメノツヅキ」のメイキングPVからも伝わってくるように、なんと14年振りにプロデューサーとして二人の再始動を再び支えた「松尾さん」は、作詞もそうですが「Total Producer」としての仕事振りが、文句なしに素晴らしいと言えるのではないでしょうか。「やっぱり、この三人だからこそ」といった、会心の復活劇です。僕は主に洋楽を聴く立場にありますが、これほど久しぶりに「日本語の歌詞」にハッとさせられるのは、大御所作詞家の「松本隆」さん以来でしょうか。実は僕は、元々「松尾さん」が20代の学生の「音楽ライター」であり「物書き」だった頃からの、何百というR&Bはじめブラック・ミュージックのレコード・CDのライナー・ノーツをあきれるほどに拝見してきています。ご本人の著書を読んでいただければすぐに気がつかれると思いますが、もとより美しい文章を書く方ですが、人間の繊細な感情を改めて文字にするというのは、決して簡単な作業ではありません。

前回の記事でも、また過去にも何度も触れた話題ではありますが、配信の時代で「アルバム」が受け手に届きにくくなった現代の音楽産業や環境においては、過去のように「プロデューサー」の重要性が年々希薄になりつつあるような印象が強くあります。
真に実力のある「プロデューサー」とは、アルバムや楽曲ごとに適切な演奏家・作曲家・作詞家・編曲家・デザイナー等々、自身の人脈を総動員して多くのブレーンを集めることが可能となります。世界に目を向ければそれは、『We Are The World』における「Quincy Jones」(クインシー・ジョーンズ)であり、Jazz の世界では「Tommy LiPuma」(トミー・リピューマ)であったりするわけですが、つまるところ、それくらい受け手であるファンやリスナーが聴きたいと思っている作品であると同時に、送り手であるアーティストが納得できる「Win-Win」な方向性を総合的に判断できるのが、真のプロデューサーなのだと思います。

すこし御幣があるかもしれませんが、我々のように1970~90年代に本物の洋楽を聴いて育った世代は、中途半端なサウンドだとか物真似や見てくれだけのパフォーマンスなどでは、ただの1ミリさえも心が動くことはありませんし、その辺りが自ら能動的に「聴く行動」にでるかどうかの「基準」になっていたりします。そういった意味でも、表現者である「CHEMISTRY」やプロデューサーの「松尾さん」の存在意義は、非常に大きいものと思えます。3曲目に収録された国内若手アーティスト二人の「Alfred Beach Sandal + STUTS」による、うねるベースと FUNK 感溢れる素晴らしい楽曲『Horizon』のカヴァーを、「CHEMISTRY」に提案するあたりも、松尾さんならではの目利きぶりで、新時代の「CHEMISTRY」の新たな魅力と可能性を示していて、もうこれは流石としか言い様がありません。

国内のヴェテランを除いた若手アーティストの中で、現在この二人を凌ぐ Vocalist は、まず見つからないでしょう。世界を見渡しても非常に稀有な「男性DUO」である二人は、「松尾さん」がユニットを命名する際に感じたその『音楽的化学反応』(CHEMISTRY) は、これからも時を経て更に進化を続けていくことでしょう。
おっさんの楽しみが、嬉しいことにひとつ増えました。

 

[Yahoo!特集記事]に、CHEMISTRY松尾潔プロデューサーの対談が掲載されました。「パフォーマンス重視のグループばかり、歌を大事にしている人が少ないなと感じた」という川畑氏の語る部分には、もう激しく頷くしかありません。僕はといえば、CD完売ショップ続出で、4件目でようやく購入できました。11/19付の「J-WAVE TOKIO HOT 100」でもチャート6位とのこと。圧倒的なヴォーカル・パフォーマンスとプロデュース・ワークの結果ですね。

 

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CHEMISTRY
(album: CHEMISTRY – 2019)

 

 

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