10月に入ってからの初めての更新です。なかなかご紹介したいと思う作品が思い浮かばす、ずいぶん時間が経過してしまいました。
修理から戻って来てようやく復活した大切な相棒「iPod Classic」のクリック・ホイールをクルクルと回していたら、英国出身の若手ジャズ・シンガーのJamie Cullum(ジェイミー・カラム)が歌う、Clint Eastwood(クリント・イーストウッド)主演映画『Gran Torino(グラン・トリノ)』のテーマ曲でふと指が止まりました。
『グラン・トリノ』は本国では2008年に公開された、監督や演出者としても非常に高い評価を受けるイーストウッド本人が「演技者としては最後の作品にしたい」と一度は心に決めたと言われる、彼の俳優人生のすべてを注ぎ込んだ作品としてよく知られています。僕は前職を退職する頃に一度DVDで鑑賞したのですが、これほど魂が揺さぶられた作品も珍しい気がします。多分それは、ベトナム戦争や朝鮮戦争などの歴史的な背景と、その時代に男に生まれ頑固で不器用な人生を歩んだ者にしか分からない「苦悩」だとか「生き方」に、多くの人々が共鳴するからなんだと思うのです。バックグラウンドが違えど、現代にも共通する部分は多くあると思われます。
【Gran Torino – あらすじ】(出典:Wikipedia – ネタバレ注意)
フォードの自動車工を50年勤めあげたポーランド系米国人コワルスキーは、妻を亡くし(妻を思い出して「俺は嫌われ者だが、女房は世界で最高だった」という)、愛車グラン・トリノのみを誇りに、日本車が台頭し、東洋人の町となったデトロイトで隠居暮らしを続けていた。頑固さゆえに息子たちにも嫌われ、限られた友人と悪態をつき合うだけであり、亡き妻の頼った神父をも近づけようとしない。コワルスキーを意固地にしたのは朝鮮戦争での己の罪の記憶であった…
この作品の中でのイーストウッドは、かつての「西部劇」や「ダーティー・ハリー」シリーズなどにあった荒々しいアクションや表現は用いていないけれど、ちょっとした「表情」や「仕草」を通じて、晩年の円熟した演技力で観る者を圧倒します。
劇中数える程度のシーンでしか音楽が挿入されていないこの映画の中で、エンディング・テーマとして朗々と流れ出す「ジェイミー・カラム」が謳い上げる本作品のテーマは、主人公の愛した愛車「グラン・トリノ」がゆっくりと走り去っていく五大湖の湖岸の風景と恐ろしいくらいにはまり、映画の余韻をずっと引きずっていきます。 このあたりの演出は、Jazz 愛好家でよく知られるイーストウッドがミュージシャンである息子の「カイル・イーストウッド」に音楽担当を任せているところによるもので、その相乗効果は「見事」と言うほかありません。
Gran Torino / Jamie Cullum (from the Motion Picture “Gran Torino” – 2008)
かくいう自分も、小さいころから「手先は器用」と言われるものの、生き方はきわめて「不器用」そのものかもしれません。できれば、そんな風に思い当たるご同輩の皆さんにぜひ観ていただきたい映画です。
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(2009)